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2020.2.18
2020.2.18
ファンタジア
著者:ブルーノ・ムナーリ
訳者:萱野 有美
出版社:みすず書房
ISBN:4622072092
発売日:2006/5/20
サイズ:18.8cm/221p
「創造力」は、どこから出てくるのだろう。一部の人が生まれながらにして持っている「才能」なのか。稲妻のようにひらめく偶発的なものなのか。捉えづらい「創造力」について、その仕組みをつまびらかにしようと挑んだ人がいました。
多くの人が月を見たときに、人間の顔を思い浮かべるのはなぜか。なぜクジャクでもフンコロガシでもないのか。それは、その人がフンコロガシを一度も見たことがなく、記憶にないから。このように人は、新しい情報に自分の記憶している情報を結びつけようとする傾向があります。著者によれば、こういった思考は「創造力」ではないといいます。そして創造力を、発明や想像力などと区別して「これまでになかった新しいことを考えださせる人間の能力(p.33)」=「ファンタジア」と定義し、たくさんのアート事例を用いてその実体に迫っていきます。
それでは、ファンタジアにはどのようなパターンがあるのでしょうか。
例1)ある状況をひっくり返したり、反対にしたり、対立させて考える。
たとえば、一つの風景に昼と夜が同列で並んでいるマグリット<光の帝国>や、有機的な滝と無機質な建築物とが対照的なF・L・ライト<落水邸>など。
例2)ある状況を内容を変えずに、反復する。一ではなく多にする。
阿修羅像の複数の腕にみられる、反復の技巧や、A・ウォーホルの<キャンベルスープの缶>など。
例3)視覚的または機能的に類似するもの同士の関係に注目する。
たとえば、テーブルの脚=動物の脚というように。
例4)色彩、重量、素材、場所、機能、大きさ、動きなどを交換・代用してみる。
コルクでできたハンマーや、ダリの絵画(曲がった時計)、広場に置かれたベッドなど。
著者は多くの事例をじっくり分解し、パターンを見つけ、次々に分類していきます。そこで見えてくるのは、新しいものが生み出されるまでのメカニズム。ひっくり返したり、増やしたり、似たものに置き換えたり…といったパターンを組み合わせることでアートが成り立っていることが浮かび上がってきます。と同時に、ファンタジアというものがつかみどころのない空想的なものではなく、もっと身近な思考や動作によるものだということが見えてくるのです。
ブルーノ・ムナーリは、戦前戦後にかけて活躍したイタリア生まれのデザイナーです。彫刻・絵画・装幀・ポスターデザイン・工業デザイン・詩作・著述など幅広い分野に携わりました。初期には「未来派」の活動に参加。グラフィックデザイナー、アートディレクターとして雑誌の編集などに関わる一方、しかけえほんなどの制作に励みました。晩年はこどものための造形ワークショップなど、デザインを通した教育活動に力を注ぎました。
著者の遊び心がたっぷりつまった本書は、ファンタジアを持つことの楽しさとともに、その必要性を説いています。
創造性のある人は、あらゆる分野において絶えず新しい情報を取り入れ、知識を広げ続けていき、その力を日々の仕事や生活にも応用していくことができます。一方で創造性を欠いた人は、社会の変化にうまく適応できないのではないか、と著者は指摘します。
また、私たちは普段、見た目のよさばかりに惑わされてしまったり、少ない判断材料で物事を決めつけたりしてしまうことがあります。他者の行動や事象について、「良いか悪いか」「きれいかきれいじゃないか」など二者択一でジャッジしてしまうことも少なくありません。このように何事も安易に決めつけて切り捨ててしまうことは、自らの世界が狭まるだけでなく創造性を働かせる余裕がなくなってしまうのではないか。創造性が働かなくなると、目の前に立ちはだかるさまざまな問題にしっかりと立ち向かえなくなってしまうのではないか。著者はそのように警鐘を鳴らしているようにも思えるのです。
ファンタジアは、限られた人に与えられたものではなく、それぞれが育んでいくもの。そのために大切なのは、「好奇心」であるといいます。
「子どもの精神を、一生ずっと自分の中に持ち続ける。それは知りたいという好奇心を、理解する喜びを、コミュニケーションしたいという思いを、持ち続けるということ(「あとがき」より)」
創造力を分析することで、人の持つ潜在的な能力を引き出そうとしたブルーノ・ムナーリ。40年以上前に書かれたものですが、色褪せることなく大切なことを思い出させてくれる本です。ファンタジアこそ、これからの時代に必要な力ではないでしょうか。
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ムルーノ・ムナーリ 1907年10月24日生まれ、1998年9月30日没。イタリアの美術家。著書に『木をかこう』(至光社)、『モノからモノが生まれる』(みすず書房)、『太陽をかこう』(至光社)など。