教養

『葉隠入門』三島由紀夫|守破離の書評

1983年生まれ東京都在住。青山学院中等部・高等部卒。 慶應義塾大学総合政策学部にて、国際政治学を専攻。 卒業論文で学部優秀論文賞(SFC AWARD)受賞。 2006年住友商事に入社し、海外駐在を含めた実務経験から 様々なビジネスの知見を得る。 現在、歴史を軸にしたコンテンツ作成者として活躍中。 冷徹な分析力で現代社会とビジネスを診断する。


葉隠入門
著者:三島 由紀夫
出版社:新潮社

ISBN:4101050333
発売日:1983/4
サイズ:14.8cm/226p

 

「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」

誰もが一度は耳にしたことがあるであろう、この非常に有名な一節。これは江戸時代初期に佐賀藩で編まれた書物である『葉隠』に記述があるものです。

今回紹介する『葉隠入門』は、昭和を代表する作家である三島由紀夫が記し、その名のとおり『葉隠』の成立の背景や『葉隠』の記述の中から興味深い箇所を抜粋して解説している書物です。

随所に三島の『葉隠』に対する思いが滲み出ており、三島文学が好きな方にも楽しめる一冊となっています。

 

武士道と聞くと、非常にスパルタ的で前近代的で、個人よりも集団や組織の意向が重視され、抑圧されたものを感じてしまいますし、古風で滅私奉公な姿勢から学び取れることは、個の時代と言われる現代においては限られているように思えてしまいます。

『葉隠』は第二次世界大戦以前の日本で持てはやされ、そして読むことを強制されていたものです。「欲しがりません勝つまでは」などの戦時中のスローガンとも合致した精神が宿されている『葉隠』は、日本の戦争賛歌に与したもののように捉われ、戦後には顧みられることなく唾棄すべきものと一時されたのでした。

 

しかし、三島は『葉隠入門』の文中で「これは自由を説いた書物なのである。これは情熱を説いた書物なのである」と言い放っているのです。

武士道や江戸時代という封建的で前近代的で、自由というよりはむしろ束縛を強いられた世界、社会における道徳規範を説いた書物である『葉隠』になぜ”自由”とか”情熱”といった近代的で人間賛歌的な文言が彩られているのか。

三島は、『葉隠』に何を見出したのか。

 

「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」に三島は、「名誉を守るための自由意思の極限的なあらわれ」を感じ取ったのです。そしてさらに、現実として死は必ずしも”そのようなものではない”といった『葉隠』作者の深いニヒリズムにも思いを馳せて、その思想を汲み取っていくのです。

『葉隠入門』の後半には、『葉隠』からの抜粋があり、そこには組織における処世術に役立てられそうなものもたくさん描かれています。たとえば「ときには、部下のミスを見て見ぬふりをすること」など。

そっと、上司の手許にこの『葉隠入門』を置いておくのも面白いかもしれませんね。

三島 由紀夫 1925年1月14日生まれ、 1970年11月25日没。日本の小説家。著書に『潮騒』『金閣寺』『鏡子の家』『憂国』『豊饒の海』など。