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2020.2.25
2020.2.25
ISBN:4061498916
発売日:2007/5/18
サイズ:17.2cm/286p
「私たちは破壊を繰り返して生きている」
突然そんなことを言われたら、ぎょっとする人は多いかもしれません。
人生というのは、生まれてから死ぬまで一本道が敷かれていて、その道中ではなるべく健やかにあることが良く、仮に「破壊」というワードを使わざるえない事態が発生したときには、何か問題が起きている。そんな考え方がマジョリティであるような気がしています。
しかし、私たちは自らをいつの間にか「破壊」しながら生きているというのです。
この『生物と無生物のあいだ』では、私たち生命体の肉体は、確固たる不変の物体ではなく、あくまでも分子の淀みとして説明されています。肉体を構成する要素は、実は全て分子レベルで破壊されて、再生されているというのです。そして、この破壊と再生によって生じる分子の流れこそが、「生きていること」と述べられています。
「秩序は守られるために絶え間なく壊されなければならない。」出典:福岡伸一『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書、2007年)166p.
なんだか、私たちが当たり前のように生きている日々の景色が変わってきませんか?
分子レベルの破壊と再生についての学術的な部分は、本書で詳細に書いてあるので割愛して、ここではもう少し、この本のテーマのひとつである「生きていること」と「流れ」について掘り進めていきます。
生命を持つものは、等しく分子の「流れ」の中にあるということ。
この生きている体は、分子の入れ替わりによって維持されている「流れ」でしかないということ。
そのことを思うと、私は自分の体が細かく分解され、空中にサラサラと流れていくイメージが湧きます。そしてそのイメージは、どこか私に安堵感をもたらします。
私はこの本を読んでから、この安堵感がどこから来るのか考えてきました。そして辿りついた理由のひとつが、自分自身に対する一種の責任感からの開放です。
私は自分自身に対して、健やかに安全に生かし続けなければならないという責任を、無意識に持っているように思ってきました。危険を避けて、健康に気をつけて、命を少しでも長く維持できるように努力をする。それこそが正しく、それ以外は異常であるという風潮は多くの人が多かれ少なかれ感じているのではないでしょうか。そして、その風潮はある種の抑圧を産んできたように私は考えています。
ところが、私たちがそのように必死に守ろうとしているこの肉体は、常に入れ替わっている分子によって構成されている「流れ」でしかないのです。
そう思うと、少し肩の荷が下りたような気持ちにはなりませんか?
生きるということは、産まれた瞬間から課せられている一大イベントです。すいすいと毎日の波を乗りこなしている人もいれば、どうにか毎日を乗り越えることで精一杯な人もいるでしょう。十人十色、千差万別、人生というのはそういうものではないかと思います。
人生は人それぞれなんて簡単に言えてしまうけれど、それでも毎日のしんどさは変わらない、できればもう少し軽やかに毎日を過ごしたい。
そんな風に感じている人には、この本を一度手にとってみてほしいです。新たな視点を手に入れることで、世界の見え方が変わるかもしれません。
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福岡伸一 1959年9月29日、東京生まれ。日本の生物学者で、専攻は分子生物学。ハーバード大学医学部研究員や京都大学助教授などを経たのち、青山学院大学の教授を務めている。2006年に第1回科学ジャーナリスト賞を受賞したほか、2008年に『生物と無生物のあいだ』で第1回新書大賞を受賞した。著書に『世界は分けてもわからない』(講談社現代新書)、『できそこないの男たち』(光文社新書)、『フェルメール 光の王国』(木楽舎)など。