教養

『ブッダの人と思想』中村元/田辺祥二|守破離の書評

1983年生まれ東京都在住。青山学院中等部・高等部卒。 慶應義塾大学総合政策学部にて、国際政治学を専攻。 卒業論文で学部優秀論文賞(SFC AWARD)受賞。 2006年住友商事に入社し、海外駐在を含めた実務経験から 様々なビジネスの知見を得る。 現在、歴史を軸にしたコンテンツ作成者として活躍中。 冷徹な分析力で現代社会とビジネスを診断する。


ブッダの人と思想
著者:中村 元 田辺 祥二
出版社:NHK出版

ISBN:4140018356
発売日:1998/7/1
サイズ:18cm/204p

 

日本にとって、仏教はとても馴染み深いもののように思えます。町を歩けばお寺がありますし、袈裟を着たお坊さんを見かけることも多いでしょう。

ただ、「仏教とは、どういうものか?」と質問されたとしたら、私たちは明確に説明することができるでしょうか。

それもそのはず。一口に仏教といっても、その姿は実はとても多様です。紀元前の昔にインドにて萌芽した仏教は、日本に入ってくる際にお隣中国を経由しました。そのため日本に入ってきた仏教は最初の段階で中国思想の影響を大きく受けています。また、日本に入ってきた後も日本土着の宗教や思想に大きな影響を受けて、今日に至っています。

つまり、日本においては、仏教の開祖たるお釈迦様(ブッダ)の教えをダイレクトに伝えている原始仏教、初期仏教の馴染みは薄いのです。

では、お釈迦様のダイレクトな教えとはどんなものなのでしょうか。

 

『ブッダの人と思想』は、日本における初期仏教研究の泰斗たる中村元先生(1912年~1999年)がNHKのテレビ番組で語った内容を、同番組のディレクターの田辺祥二さんが原稿に纏め上げた内容です。

中村元先生は、サンスクリット語・パーリ語に精通し、非常に優れた高名な学者です。初期仏教の仏典などの解説や翻訳に代表される著作は多数にのぼり、その功績から紫綬褒章も受賞されています。そのような専門的な学者ですが、「生きる指針を提示するのも学者の仕事」として、仏典の言葉を平易な言葉にして一般人が身近に触れられることにも心を砕いています。

例えば、”ニルヴァーナ”という単語。日本語では元来「涅槃(ねはん)」と訳されてきましたが、これを中村先生は「安らぎ」と訳しています。その理由として、後代の仏教者はニルヴァーナを大袈裟に表現しているが、ブッダが使っているこの言葉は、当時一般的な言葉であったから。という具合です。

 

ブッダは高尚な宗教を大上段に構えて啓示するわけではなく、まさに悩んでいる人に対して少しでも心の平穏をもたらしてあげたいと思って活動していました。

興味深いことに、「なるべく平易に」という中村先生の姿勢こそが、ブッダの思想を映し出しているのです。

 

本書を通して、浮かび上がってくるブッダの思想とその人物像は、3000年の時を超えて、まるで我々現代人の悩みにそっと寄り添ってくれるように感じます。

そんな風に思わされる本書の語り口。ぜひ一度その言葉に触れてみてください。

中村 元 1912年生まれ、1999年没。日本のインド哲学者、仏教学者。著書に『中村元の仏教入門』(春秋社)、『東洋のこころ』(東京書籍)『ブッダ伝:生涯と思想』(角川ソフィア文庫)など。翻訳書に『ブッダのことば:スッタニパータ』(岩波文庫)など