インタビュー:君は誰をどうやって幸せにしたい?そのヒントはすべて観察にある――野林徳行

1984年生まれ。埼玉県立川越高等学校、早稲田大学社会科学部卒業。リクルート、グーグル日本法人を経て2016年に独立。自社メディア運営をしながら、顧客のマーケティング支援、人材育成、採用支援を行う。専門はマーケティング、広告、営業。

キャリアの悩みは尽きません。

 

今回の記事は、今後のキャリアを考える上で、多くのヒントが散りばめられています。

インタビューしたのは、ローソンやリクルートでマーケターとして活躍され、「わざわざ来る理由、わざわざ買う理由」を創り続けた野林徳行さん。『とことん観察マーケティング』という書籍も出版されています。

 

野林さんの考え方はシンプルです。それは「誰を幸せにしたいのか」を考えること。そしてそれを見つけるためには「観察」が必要、ということです。

キャリアと観察。一見何の関係もないように思えます。しかし、そこには、書籍に「”クレイジー”マーケター」とまで書かれたマーケティング手腕のある野林さんだからこそ編み出された方法論があるのです。

 

何ともイカツイ経歴にクレイジーとまで評されているので、ひょっとして「怖い人」という印象を持たれるかもしれませんが、インタビュー中も非常にフランクにお話されつつ、こちらからの質問にもとても誠実に、必ず「同じ目線」で語りかけてくださいました。

 

観察のために24時間スーパーマーケットに立ったり、1人で300人に聞き取り調査をしたりした「圧倒的な」経験を持つ野林さんの世界をご堪能ください。

 

野林徳行

1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒。1987年リクルート入社。2003年ローソン入社。2010年ローソンエンターメディア代表取締役社長就任。その後、ローソンHMVエンターテイメント取締役、ブックオフコーポレーション取締役、レッグス専務取締役CMO、FiNC取締役CMOを歴任。移動しているすべての時間を観察に費やし、観察できないジャンルは毎クール8本のドラマを見てインプットしている。

 

転職とか起業とか悩む前に考えてほしいこと

若い人の悩みを聴いてると

「このまま会社にいてもいいのか」
「転職しようか」
「起業もしてみたい」
「けどいまの会社で成果を出さないと次にいけない」

とか、そういう話になることが多い。

 

迷うよね。自分の人生だからね。

 

でも実はこの悩み、見方を変えると違ったものが浮き出てくる。

それは、自分は(そして自分の会社は)、誰を幸せにするために働いているのか考えること。

 

君は、誰を幸せにしたくて働いているんだろう。

自分の仕事で幸せになっている人の顔は目に浮かぶかな?

 

誰を幸せにしたいの?を24時間考える

ありがたいことに、私はたくさんの企業から仕事の相談をいただく。問題があるから相談をいただくわけだが、そこには共通点がある。

カスタマーが見えていない。というか、喜ばせたいカスタマーが誰なのか顔が浮かんでいないケースが7割。

 

御社は、

「誰を幸せにしたいんですか?」
「その人達はどのくらいいるんですか?」
「その人達は何に困っているんですか?」
「どのように幸せにするつもりですか?」

この4つの質問をして、明確に答えられる企業は少ない。だったらそこで働いている人が悩むのは当然なのかもね。

この4点でもだけ明確にできれば、今の悩みに変化があるよ。悩みの質が変わってくる。

 

もちろん「役に立ちたい!」という想いと、「役に立てるの?」という実現可能性の、両方が必要だけどね。

 

慌てて考えても幸せにしたい人の顔は見えてこない

誰を幸せにしたいか。
どうやったら幸せにできるのか。

これをとことん考え抜き、チームで議論して、更に街で見かけた人を観察して…。そうすると、段々と幸せにしたい人の顔が見えてくる。そしたら打ち手も見えてくる。

ただ打ち手は一度通用しても、外部環境の変化によってまた使えなくなることもある。

 

たとえば私が社外取締役をしているブックオフ。

ブックオフってキレイな古本屋チェーンとして伸びてきたけど、新刊書店の不調や、音楽・映像のダウンロードシフトなど、市場縮小という外部環境の変化に直面した。

そこで、本・CD・DVDだけじゃなくて、ファッションやブランド品など、ジャンルを広げようとした。

だけどその領域は、トレジャーファクトリーとかコメ兵とか、専門的な競合がひしめいている。

古本という確立した手法通りにはいかないうちにメイン商材の環境も悪化すると、売上や利益が下がってくる。焦るよね。

焦ると、企画書上はいけると思ったのに、実際はうまくいかない。

そのプランは、誰が幸せになるの?ターゲットは誰?どのくらいいるの?どこにいるの?

この追求が足りないから。

 

で、次はメルカリが流行った。また変化したね、外部環境。

若年層は移行するの?使い分けするの?どう感じているの?面倒くさくないの?

聞きたいこと満載。

 

でも変化に慌てると、広告代理店を呼んで、「何かアイディア出してよ」ってなってしまう。

そもそもブックオフの幹部って、10代や20代に会って聞いてる?

店にも若いアルバイトの子がいっぱいいる。結構本好きの比率は高いけど。大学生とか若い社会人、店でも道端でも、友達でも。そのへんで聞くとか、まずは何が起こっているのか、どう思っているのか聞くだけでストーリーが浮かんでくる。

 

新しいアイディアは観察から見出す

会ったことがない人のことを想像するだけで、いいサービスなんてできない。だから私はいつも「カスタマーを知ろう」「カスタマーに聞こう」と言っている。

代理店に任せるんじゃなくて、調査会社に任せるんじゃなくて、自分たちで会いに行くんだよ。自分たちで観察をすることで新しいアイディアがどんどん生まれるよ。

ただ、みんな忙しい。いちばん大事な「カスタマーを知る」の優先順位が忙しさで下がるケースが多い。

 

自分のカスタマーのことをストーリーのようにスラスラ話せますか?今、やってみて!

うまくできないのなら、それは観察が足りないんじゃないかな。

できなかった人は、50人とか決めて自分たちのカスタマーを観察しに行ってほしい。

 

私の本でも紹介しているけど、観察から大きなビジネスや長く続くプランがたくさん生まれている。

私はスーパーを24時間観察したり、店外で聞いたりして、ローソンストア100を展開するヒントを得た。ファンに聞きまくってリラックマのお皿がもらえるキャンペーンを作り、もう10年以上も続いている。

 

「悩んでる」「このままでいいのか」とか言って立ち止まっているのなら、まずはそこまでやってみようよ。

必ず新しい発見があるから。

 

安定の定義が変わってきたことに気づいてる?

リクルート時代から若い世代をずっと見ているけど、今も昔も安定企業を求めている若者は多いよね。

だけど、安定の種類が変わってきた。

昔は、銀行に就職することは安定の代名詞だった。ただ今は、合併とかリストラのニュースも多いし、AIとか仮想通貨とか、外部環境の変化によって、銀行に就職することで安定が得られるわけではなくなった。

人気就職ランキングも下がっているんでしょ?

 

大きな組織に入って我慢していれば安定できるという、構造そのものが変わってきたことに学生も気づいているんだよね。耐えて課長になって、部長になって、定年を迎えることを選ばない。

じゃあ、いま安定している企業ってどこなんだろうね?

安定している企業が見つかって、その会社に入社できたとしよう。それでもその会社が、10年20年、この先ずっと安定しているかはわからないよね。

 

だからもう、安定する方法じゃなくて、誰かの役に立つ方法を考えようよ。それが真の安定なんじゃないかな。

誰のために仕事をしているか。そこにたどり着かなきゃ、安定とは言えないんじゃないかな。

 

給与をくれるから。
上司の命令だから。

働く理由はこれだけ?

幸せにする人の顔が見えない仕事じゃ、安定にはたどり着かないと思うよ。

 

エクセルで語るな、実像で語れ

たとえばFiNC(私がこの間まで勤めていた会社ね)。ヘルスケアのアプリケーションを開発しているモバイルテクノロジーベンチャー。

FiNCでは美容・健康に詳しいアンバサダーと契約していて、参加していただいている方が400人以上いる。

この方たちは、インフルエンサー・マーケティングに使われる芸能人ほどのフォロワー数ではないし、世間一般では、これから活躍する状態の人たち。

 

ポイントは、この人たちをエクセルの表で管理して、数字だけで営業しないこと。

SNSのフォロワー数とかエンゲージメント数(ざっくり言うとリツイートやいいねなどの合計)とか、エクセルの表にまとめればたくさんの数字が並ぶけど、大事なのは数字だけじゃない。

 

実像で語れといつもFiNC社内でも言っていた。

  • アンバサダーの皆さんの夢はなに?
  • なんで今の仕事やってるの?
  • どんな価値観を大切にしているの?
  • なんでFiNCのアンバサダーをやってくれているの?

これらを徹底的に知るんだよ。400人分ね。1人1人のステキなプロフィールを作るんだ。

フォロワー数やエンゲージメント数も見るんだけど、「この人はファンからのコメントにきめ細かく返信しているぞ」とか、「この人はコメントへの返信がめちゃくちゃ早いぞ」とか、そういうのも観察して、プロフィールにしていく。

アンバサダーさんたちは、「そんなところまで見てくれてるんですか!」って興味を持ってくれる。そうなると、アンバサダーさんたちはFiNCのファンになってくれるよね。

アンバサダーさんたちを「この子たち」と言える状態になるまで、徹底的に知ること。これに尽きる。

最近は「FiNCアンバサダーをしている◯◯です」という発信が増えてきています。

 

アンバサダーさんたちと関係を作ったあとは、本当に良いものを提供して、「本音でコメントしてね」という依頼をする。

さり気なく買った風でいいコト言うなんて、ファンは一瞬で見抜くしね。

本音でコメントしてもらう関係性を作るのがポイントだよ。ここは腐らせちゃいけないポイントだから。

そもそもFiNCとして本当に良いと思うもの以外をアンバサダーに依頼してはいけないってこと。

 

ターゲットが明確になれば案も出やすい

アンバサダーさんたちと深い関係性を作っていくと、徐々に新規のアンバサダーさんに声をかける必要はなくなってくる。

なぜか。

「この子たち」は友だちもステキな子たちばかりだから。

 

FiNCは女性向けのサービスだが美容と健康のみに特化している。

女性向けなのに、恋愛も、ファッションやメイクアップのコンテンツも一切なし。美容と健康のみ。セグメントされているから、ターゲットも見えやすくなる。

 

ターゲットが見えてくると、案も出やすい。

たとえばFiNCユーザー向けに旅行を企画するとしたら、どんな内容にする?

ここで読むのをストップしてちょっと考えてみて欲しい。

美容と健康に興味ありまくる人たち向けの旅行企画は、どんなものだろうね。ここではあえて答えは書かないから、いろいろと思案してみよう。(どうしても気になる場合は、BRAVEANSWER編集部に問い合わせてね。)

 

MustではなくWillで観察しよう

MustとWillの違いっていう話もしておこうか。

「観察しなければならない」っていう人の観察と、「観察したくて仕方ない人」っていう人の観察力は10倍違うよ。

例えばマーケティング職に興味があって、ユニ・チャームに就職したとしよう。人気会社の人気職種だよね。

 

それで、高齢者おむつ部門に配属された。高齢者おむつ、興味ない人もいるかもしれないね。「ベビー用品が良かった!」「ペット用品が良かった!」みたいなね。

でも、それは一旦忘れよう。ユーザーに向き合って、聴きまくればいいよ。

それで愛が生まれるから。

 

どんどん高齢者に会ってみよう。観察してみよう。そうすると「遠出がしたい」ってみんなが思っていることがわかる。

遠出して欲しいよね。遠出しても問題ない製品つくろうよ。伝えようよ。

日本一「高齢者が遠出するときに使うおむつ」に詳しいマーケターになろうよ。高齢者には自分が携わったおむつと一緒に、どんどん遠出してもらおう。

24時間高齢者のおむつのことだけ考えて、がむしゃらに働いてみよう。何度も何度も穿いてみよう。

それで1通でも御礼の手紙がマーケティング部に届いたらどう?

「みなさまが作ってくれたおむつのおかげで孫と旅行ができました。」

とか書いてあったら泣いちゃうでしょ。言いたいのは、こういうこと。

 

同じ内容の講演を毎年同じ人にしてくれと依頼される理由

『とことん観察マーケティング』の講演を何度も依頼してくれる会社がある。

一度聞いてくれた人たちに同じ内容で良いのですか、と思う。

相手はそれが良いという。なぜか。

 

その人達は講演のあと1年間新しいことやっているから、成長している。講演で改めて自分ができているかを感じることができる。

どうしたら良いのかわからない時と、やってみたんだけど「カスタマーを知る」でやれたかどうか確認する時とでは、聞こえ方が違うそうです。

つまり講演は、カスタマーを知りたいという気持ちで新しいチャレンジができたかどうかを確認するためのツールということだね。

 

自分の強みを活かした行動をしよう

この記事を読んでいる、例えば24歳社会人2年目の人は、「おれにはあなたほど経験もないし引き出しもない。そんなにうまくいかないよ!」って、この記事を読みながらため息をついているかも知れない。

 

それでは何も始まらない。すぐできるのは、観察しまくる、聴きまくること。

24歳は上司より20代の友人が多いよね。その友人たちに聴きまくる。集まってもらって聴きまくる。

「プライベートでは仕事の話とかはちょっと…」とか、そんなこと言ってる場合じゃない。

ステキを創りたければ24時間マーケティング。

 

興味を持って聴き続けると、どんどん詳しくなり、引き出しが増え、ストーリーで語れるようになる。

20代のことならあいつに聴けってなれば、会議でもとても役に立つと思う。

 

職種が営業でもまったく同じ。

クライアントにとって価値ある情報、例えば、カスタマーの本音とか競合商品をどう捉えているのかとか、不便に思うこと、好き嫌いの理由などを聴きまくってストーリーを持って商談すれば良い。

クライアントのカスタマーをクライアントより知ろうとしていることが分かれば、先方も信頼するし、情報も出してくれる。

 

ローソンに営業するとしよう。

「御社とセブンイレブン、ファミリーマートをそれぞれSWOT分析で比較しますと〜」

みたいなプレゼンよりも、

「都内ローソン100店舗を回ってきました。共通する課題が3つ見つかりました」

のほうが、聞く気になるね。

カスタマーを知る力が足りてないところを埋めてくれる、という期待が持てる。

 

観察して、聴いて見つけた「共通点」をビジネスにする

観察しまくって聴きまくると、カスタマーの顔が見えてくる。そうしたら、提供するサービスもどんどん寄り添っていくと思うんだよね。

例えば「起業してヘルスケアビジネスをやりたい」って思うとする。

でもヘルスケアビジネスって広すぎる。このまま始めてもどこから手を付けていいかわからない。

ダイエット?メンタルヘルス?長寿?糖尿病?

「健康にかかわる何かがしたい」じゃなくて、どんな人の役に立ちたいか考える。そのうえで「とことん観察」。

 

そのなかで「自分も経験あるから、メンタルヘルス不全になってしまった人を助けたい」と思ったら、専門家にもたくさん聞いて、スタートを切ることができる。ターゲットが明確だからね。

 

例えば、リファイン就労センターの井田代表の話。

もう何百人もメンタルヘルス不全になってしまった方々を社会に戻している。その方々は以前よりも活躍されている。

そこでも『とことん観察マーケティング』の講義をするのだが、就労センターの卒業生も聞きに来る。講演後のアンケートはびっしり裏まで感想が書いてある。

頑張ってきたんだと思うし、頑張りたいんだと思う。応援したいね。

 

一人ひとり原因は違う。深さも違う。一人ひとり向き合って、とことん話をしていくと、ナレッジになっていく。専門家と組んで一人ひとりのステキを創っていく。

彼にはカスタマーが見えている。だから打ち手も見えている。苦労して仕組みを創っている。

繰り返すけど、カスタマーを知れば、ストーリーが浮かんできて、笑顔にたどり着くことができる。

 

誰を幸せにしたいかがスタート!

 

不満の主語を自分に置き換えるとやるべきことが見えてくる

世の中に悩んでいる若者が多いのであれば、カスタマーに向き合うことができていない企業が多いって事かもしれない。

部長が〜。
予算が〜。
前例が〜。

それを覆すのは、カスタマー視点。

広告宣伝や販売促進、商品デザインは、狭義のマーケティング。

広義のマーケティングは、企業経営そのもの。

この会社は誰を幸せにするために何をするんですか?

この商品は誰を幸せにするためにどう作り、どう伝えるんですか?

 

会社を辞めるのも選択肢。ミッションが不明確な会社もあるからね。でも会社にいるうちに腐っているのはダメ。

不貞腐れて適当に仕事してると、実力がつかないから時間の無駄になってしまう。結局、損するのは自分だから。

 

なかなか気持ちがのらないのなら、不満やうまくいかないことを全部書きだしてみる。

そして、主語を全部自分に言い換えてみる。

例えば、「企画を出しているのに部長が全然承認してくれない」っていう不満があったとしたら、「自分の企画が、カスタマーが幸せになるストーリーになっていなくて部長が承認するに至らない」という風に。

そうしたら、やるべきことが見えてくる。

 

さあ、観察に出かけよう。カスタマーの声を聴きまくろう。

自分は誰を幸せにしたいのか。24時間考えよう。

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