オピニオン

AIはゲルニカを描けるのか?

1983年生まれ東京都在住。青山学院中等部・高等部卒。 慶應義塾大学総合政策学部にて、国際政治学を専攻。 卒業論文で学部優秀論文賞(SFC AWARD)受賞。 2006年住友商事に入社し、海外駐在を含めた実務経験から 様々なビジネスの知見を得る。 現在、歴史を軸にしたコンテンツ作成者として活躍中。 冷徹な分析力で現代社会とビジネスを診断する。

 

2018年1月19日。

Microsoftの人工知能を専門に研究する機関「Microsoft Research AI」は、テキストの説明から画像を描くAIシステム「AttnGAN」を発表しました。

例えば「体が黄色で黒い羽を持ち、くちばしが短い鳥」という説明から、この条件に合う鳥の絵を描くことが出来ます。この鳥は現実に存在する鳥ではなく、「AttnGAN」が説明文を読み取って想像して描いた鳥です。

いよいよAIが絵を描く時代に突入しようとしています。

 

AIの発達によってシンギュラリティ(技術的特異点)と呼ばれるポイントに到達すると、AIは私たち人類の思考の総量を遥かに上回る思考ができる状態となり、私たちに多大な影響を与えると言われています。

 

「代替されゆく思考。AI時代を生き抜く力とは。」でまとめたように、BraveAnswer編集部では、AIが台頭する時代に私たちが生き抜くためには「グランドデザインを描く力」を鍛えることが必要であると考えています。

グランドデザインとは、長期的な視点で将来を見据えて立てる計画やプランなどの大きな枠組みのことです。

 

グランドデザインを描く力があれば、「AIでも破壊不可能な埼玉のオヤジのビジネスモデル」で紹介したように、自分の価値観をベースとした生き方をすることが出来ます。

 

グランドデザインを描くことは、理想を表現すること

グランドデザインとは、例えば都市を作り上げる際の都市設計のようなものです。

都市設計は、人口や土地利用、主要な施設など、都市の将来あるべき姿を想定し、そのために必要な規制や誘導、整備を行うことで、都市を発展させようとする方法や手段のことです。

 

794年に遷都された平安京は、唐(当時の中国)の首都である長安に倣って作られました。平安京の道が碁盤の目のように直線の道を張り巡らせたようになっているのは、最初からそう設計したいと思ってつくられたのです。

グランドデザインの役割とはまさに「どうしたい」のかを描いた道しるべのようなものです。

 

このグランドデザインの役割をキャリアに置き換えてみると、「自分の理想のキャリアを表現すること」と言い換えることも出来ます。

以前であれば大企業への就職を目指し、定年まで勤めあげるといったキャリアにおける「長安」がありました。

既存のグランドデザインを参考にしながら、必要に応じて微調整すればよかったのです。

 

しかし、雇用形態の変革やAI時代の到来などにより、これまでの固定概念に沿ったキャリアを今後も歩めるかどうかは分かりません。

こういった状況下で、自分の価値観や軸を元にしたあなた自身のキャリアにおけるグランドデザインが必要であり、それを描く力が求められています。

 

グランドデザインは数学でも芸術でも重要である

グランドデザインの役割はキャリアだけにとどまりません。

数学や芸術作品から、ビジネスモデルまで、グランドデザインの役割が重要になります。

 

数学で言えば、アインシュタインの「E=mc²」という数式。

この式は、アインシュタインが提唱する特殊相対性理論の帰結として1907年に発表されました。

アインシュタインは、特殊相対性理論という自分が信じる理論、つまりはグランドデザインを持っていました。そのグランドデザインに沿って、それを表現するために生み出したのがこの「E=mc²」という公式です。

 

芸術で言えば、ピカソの『ゲルニカ』。

ゲルニカは20世紀前半に起こったスペイン内戦のゲルニカ空爆を題材にした作品で、ピカソ特有の画風にモノクロの配色が特徴の絵画です。

この作品でピカソは、スペイン内戦に対する自身の主張を表現しました。作品の作成中には、「スペイン軍部への嫌悪の意味を込めた『ゲルニカ』を製作中である」という声明を発表しています。

つまりこの作品は、ピカソの反戦という主張を表現しているわけです。

ゲルニカもアインシュタインの「E=mc²」と同様に、ピカソの価値観を表現するために生み出されたのです。

 

ビジネスモデルで言えば、Google。

Googleは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」をミッションに掲げています。

Googleはこのビジョンに沿ってビジネスモデルを構築し、サービスを展開してます。「(検索エンジンの)Google」「GoogleMap」「Gmail」など、Googleが展開するサービスは1クリックで情報にアクセスできるものばかりです。そしてそれらのサービスはすべて有機的につながっており、あらゆる情報へのアクセスを可能にしています。

 

このように、グランドデザインを描く力、つまりは理想を表現する力はあらゆる場面で重要な役割を担っています。

 

AIはグランドデザインを描けない

AI時代に必要な力は「グランドデザインを描く力」です。iPS細胞の研究で有名な山中伸弥教授は、羽生善治永世七冠との共著の中で以下のように述べています。

AIって抜群に優秀な部下の1人なんですよ。膨大な知識を持っていて、いつも冷静沈着。感情を交えずに「山中先生、これを選択した場合、このようになる可能性が13パーセント高くなります」(笑)。とても貴重な情報ではあるけれど、あくまでセカンドオピニオンというか、彼は部下の1人であって意思決定者ではない。

(出典:山中伸弥・羽生善治、講談社『人間の未来 AIの未来』、2018年)

 

AIは意思決定者にはなりえません。なぜなら、決断・判断を下すのは私たちだからです。そして意思決定をする上で重要になるのが、「グランドデザインを描く力(=理想を表現する力)」なのです。

まず私たちが理想を表現し、それに従って意思決定を行っていく。意思決定した後のアクションはAIやAIを搭載したロボットに代替されていくでしょう。それでも、意思決定をする力はAI時代にも必要になります。

 

AIはゲルニカを描けるのか?

AIにゲルニカは描けるのでしょうか。

 

答えは否。描けません。

なぜなら、ゲルニカ空爆という情報を持ったAIが絵を描こうとしたら、空爆を受けたゲルニカ市街地の様子を写真と寸分違わぬように描いた絵になるからです。

ピカソはゲルニカ空爆に対して「スペイン軍部への嫌悪」という意思を持って、絵画という手段でそれを表現しました。AIにこの意思はありません。つまり、ゲルニカのような意思を持った絵画は描けないのです。

 

ちなみに記事冒頭でご紹介したMicrosoftが開発したAI「AttnGAN」は、「体が黄色で黒い羽を持ち、くちばしが短い鳥」という説明から、まるで写真のような絵を描きました。

写真のような絵なら、既にデジタルカメラで事足りています。

ピカソだったら、この説明からどんな鳥を描くでしょうか。

 

非合理の先へ

この記事の冒頭で触れた「AIでも破壊不可能な埼玉のオヤジのビジネスモデル」に登場する埼玉に住むオヤジは、グランドデザインを描くことで満足のいく生活を手に入れることができました。

ただオヤジは、最初からグランドデザインを描こうとしていたわけではありません。

「家賃や物価の高さと引き換えに都会に住むのか、利便性と引き換えに田舎に住むのか」

「休日に家でダラダラと過ごすのか、子どもたちと交流するのか」

このような選択を、自分にとって「何が大切で何が幸せなのか」という判断軸を元に一つひとつこなしていった結果、グランドデザインが浮かび上がってきたのです。

 

すべてを合理的に判断するAIに尋ねれば、ビジネスの観点から、田舎に住むよりも顧客がより多く存在する都市へと移住することを勧める選択肢を提示するでしょう。

それでも埼玉のオヤジは田舎に住むことを選択し、ビジネスを成功させ、満足のいく生活を送っています。

 

AIは、一見すると非合理的にみえるものを選択肢として提示してくれません。自分が「幸せ」だと感じる価値観を自分自身で決断し、判断してAIの判断軸にのせてあげる必要があります。

あなたにとって、大切なことや幸せなこととは、なんでしょうか。

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