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ベーシックインカムとは?|メリット、デメリット、問題点、今後の展望について解説

1983年生まれ東京都在住。青山学院中等部・高等部卒。 慶應義塾大学総合政策学部にて、国際政治学を専攻。 卒業論文で学部優秀論文賞(SFC AWARD)受賞。 2006年住友商事に入社し、海外駐在を含めた実務経験から 様々なビジネスの知見を得る。 現在、歴史を軸にしたコンテンツ作成者として活躍中。 冷徹な分析力で現代社会とビジネスを診断する。
ベーシックインカムとは、最低限の生活を保障するために、全ての国民に対して一定額の現金を給付する制度のことです。今後、ベーシックインカムの導入の是非を考えるにあたって、重要な要素として意外にも「AI」と「働き方」が関わってきます。この記事では、ベーシックインカムの重要なポイントをまとめました。ベーシックインカムを受け取る可能性のある、20代30代の人にオススメの記事です。

ベーシックインカムとは?

ベーシックインカムとは、最低限の生活を保障するために、すべての国民に対して一律に現金を給付する制度です。

  • 失業保険
  • 生活保護制度
  • 介護保険
  • 医療保険
  • 年金制度
  • 育児手当
  • 扶養控除

などの、特定の人に対する現金を給付する現在の保障制度をやめる代わりに、全ての国民に対して一定額を給付します。

 

給付額に関しては、例えば民進党新人の松尾勉氏が、毎月8万円の給付を提案しています。

 

ただ、介護や医療など保険制度で運用されているものについては、ベーシックインカムには含まない方向で議論が進むと考えられています。

ベーシックインカムに含めてしまうと、必要なお金をまかなえない、と想定されるからです。

育児手当に関しては、ベーシックインカムの給付対象を成人とすることで、対象外となった子供に対して育児手当を給付する方向とすることが妥当ではないかと考えられています。

 

つまり、

  • 介護保険
  • 医療保険
  • 育児手当

以外の保障制度を、ベーシックインカムに統合することが議論の基本路線です。

 

 

ベーシックインカムのメリット

一般的にいわれているベーシックインカムのメリットは以下の3つです。

  1. 労働からの解放
  2. 行政の効率化(小さな政府)
  3. チャレンジ社会の支援

1.労働からの解放

ベーシックインカムは、一律に一定額が支給されます。

最低限の生活が給付された現金によって保障されるため、無理をしてまで働く必要はなくなります。

今はブラック企業などが問題視されていますが、もし労働環境が悪い企業で働かなくても生活ができるとなれば、ブラック企業で働く人はいなくなっていくでしょう。

無理をしてでも働かなくては生活できない状態」からの解放、という意味で「労働からの解放」というメリットがあるといわれています。

 

2.行政の効率化(小さな政府)

ベーシックインカムの導入によって、社会保障の数を減らし、効率化することができます。

現在は既に記した通り、多くの保障によって現金の給付が行われています。

社会保障には上記した以外にも、

  • 住環境改善助成制度
  • 高効率給湯器等補助金制度
  • 高齢者住宅改修費助成

など、一般的にはあまり知られていない保障が多くあります。(1)

これを減らして一本化することにより、政府は「それぞれの保障の該当者を選別して現金を給付する」というコストを削減することができます。

「全員に一律給付」が基本路線ですので、マイナンバーと銀行口座のひも付けができれば実施可能な制度といえます。

ベーシックインカムの導入によって、効率的に行政を実施し、政府の負担を減らすことができるです。

 

3.チャレンジ社会の支援

Facebookの創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、ベーシックインカムの導入を金銭面や生活面とは異なる視点から言及しています。

ザッカーバーグ氏は「誰もが新しいことに挑戦できる社会にするために、失敗したときのクッションとしてベーシックインカムを導入するべきだ」と主張しました。

失敗をした時の備えがなければ、チャレンジしたい事があっても簡単にはできません。

ベーシックインカムを導入することによって、チャレンジに失敗したときでも最低限の生活を保障することができるのです。

ザッカーバーグ氏は、チャレンジを生み出す社会にするために、ベーシックインカムの導入が必要と主張しています。

 

 

ベーシックインカムのデメリット

上記したようなメリットがある一方で、ベーシックインカムにはデメリットもあります。

一般的には、以下の3つがデメリットといわれています。

  1. 財源の確保
  2. 保障制度としての非効率性
  3. 労働意欲の減退

1.財源の確保

仮に、日本の成人(約1億人)に毎月8万円を支給した場合、1年間で約100兆円が必要となります。

どのようにして財源を確保するかが議論の焦点の1つです。

この問題に対して

  • 消費税を20%にして税金での収入を増加させることで財源を確保する

という対策が考えられています。

消費税の税率を上げることで財源を確保しつつ、ベーシックインカムによって市場に出回る現金が増えることで経済が活性化します。

出回った現金を税金で再び回収することで、経済を回そう、という計画です。

 

2.保障制度としての非効率性

現在の社会保障は、生活困窮者や失業者など、現金を必要としている人のところに必要と思われる額の給付がされていました。

ベーシックインカムになると、生活の困窮や失業などで現金が必要かどうかに関係なく、一律に現金が給付されることになります。

本当に必要な人にも、現金にある程度余裕がある人のところにも支給されるため、かえって効率が悪いのではないか、と指摘されています。

 

3.労働意欲の減退

ベーシックインカムは、最低限の生活を保障するものです。

働かなくても必要最低限の生活はできるため、働く意欲がなくなるのではないか、と考えられています。

ただ、イランで6年間ベーシックインカムが導入された結果、労働意欲に大きな影響はなかった、という研究結果が出ています。

現在、試験的にベーシックインカムを導入している国もあり、その結果が注目されています。

 

 

ベーシックインカム導入の可能性を探る

ベーシックインカムにはここまでに説明してきたような議論がありますが、日本で導入するためには以下の3つの要素を考慮する必要があります。

  1. メリットが大きくなる制度設計
  2. 他国の状況は?
  3. 少子高齢化の影響

1.メリットが大きくなる制度設計

ベーシックインカムにはメリットもデメリットも指摘されていますが、デメリットよりもメリットのほうが大きくなるような制度設計が必要になります。

ここまでにまとめたベーシックインカムのメリットとデメリットは以下の表のとおりです。

メリット 労働からの開放
行政の効率化
チャレンジ社会の支援
デメリット 財源の確保
保障制度としての非効率性
労働意欲の減退

メリットとデメリットを比較して、メリットとなる部分がデメリットを上回らなければ、導入する価値はありません。

いかにデメリットを消しつつ、メリットを享受できる制度設計をできるかがポイントです。

 

2.他国の状況は?

ベーシックインカムは現在、世界各国で導入が検討されています。

上述したように、イランでは既に6年間導入されています。

フィンランドでは、2017年1月より、2000人を対象にベーシックインカム導入に向けた実験が行われている最中です。

オランダやアメリカなどは、地域レベルで試験的に導入されました。

 

このように、各国ではベーシックインカム導入に向けた実験が行われています。

他国の実験から成功事例ができれば、日本での導入に関する議論も前進すると予想されます。

 

3.少子高齢化の影響

一方でスイスは、ベーシックインカムを導入するか否かの国民投票を行った結果、導入が否決されました。

 

スイスは日本と同様に少子高齢化の国です。

ベーシックインカムを導入した場合、年金はベーシックインカムに代替されます。

ただ年金とベーシックインカムを比較した時、現行の年金のほうが受け取る額が大きいのです。

ベーシックインカムを導入した場合、年金受給者が受け取る現金は現行の年金より少なくなります

その為、高齢化の進んだスイスでは、年金を受け取る年齢層からの反対があり、導入に至りませんでした。

 

日本に似た状況のスイスでベーシックインカムが否決されたということは、日本でも同様の問題が起こる可能性があります。

年金を貰う立場である高齢者が、金額の違いからベーシックインカムに反対した場合、導入が否決されるかもしれないのです。

超高齢社会である日本では、スイスと同様に、ベーシックインカムの導入が否決される可能性が問題視されています。

 

ベーシックインカム導入のためには、以上の3つの要素を考慮して議論を進める必要があります。

 

 

ベーシックインカムは市場への投票券?

ベーシックインカムのポイントは、これまでの社会保障と違い、自由に使える現金が手に入ることです。

社会保障は、介護や育児など、使いみちが決まった現金が給付されていました。

 

これに対してベーシックインカムは、使用用途は決まっていません

ベーシックインカムでお寿司を食べてもいいし、投資に使ってもいいのです。

 

どの市場に対してベーシックインカムを使ってもいいという、市場に対するクーポンを手に入れた、という見方もできます。

これは、市場に対する投票券と言い換えることもできます。

 

つまり、ベーシックインカムは、自分がいいと思った市場(商品やサービス)に対して投票する(現金を払う)権利を与えることにもなるのです。

 

ベーシックインカムが導入された場合、「何に使うか」が大切になります。

 

ベーシックインカムによって拡大した市場は、ニーズの大きい市場といえます。

ベーシックインカムの導入で、ニーズの差がよりはっきりと現れるのです。

 

 

ベーシックインカムとAIの意外な関係〜過去の歴史も踏まえて〜

実は歴史上、ベーシックインカムと同様の制度を導入していた国があります。

 

古代ローマです。

古代ローマは、ローマの市民権をもっている人に対して小麦の配給を行っていました。

小麦の配給はベーシックインカムと同様、最低限の生活を保障するものです。

 

ただ、古代ローマと現代社会では状況が異なる部分があります。

それは「古代ローマが奴隷制によって支えられていた」という点です。

古代ローマでは、奴隷が市民の生活を支えていたために、小麦の配給を受け取っていれば市民は働かなくても最低限の生活を維持できました。

 

実は今後、この奴隷制に変わるものが登場することが予想されています。

AI(人工知能)です。

既にAIの実用化が研究されています。

もしAIが人間の代わりに仕事をするようになれば、古代ローマの奴隷制と同様に、ベーシックインカムを受け取ることで、労働しなくても最低限の生活をできるようになります。

 

AIが人間の能力を超えることを「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼びます。

これは2045年に起こると予想されています。

このままAIが発達を続ければ、2045年にはAIが人間の労働を代替する世界が到来する可能性があるのです。

 

今の20代や30代は、2045年には50代60代になっています。

リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」によれば、今の20代の平均寿命は100歳にまで伸びます。(2)

つまり、今の若年層にとって、シンギュラリティが起こる世界は元気で働いているタイミングで訪れるのです。

シンギュラリティ以降の人生はAIとともに過ごすことになります。

出典:アンドリュー・スコット著「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)」

 

労働が必要なくなった人間は、どんな生活をすればいいのでしょうか。

ベーシックインカムは必要最低限の生活は保障しますが、豊かな生活を保障しているわけではありません

 

労働がなくなるかもしれない今後の世界において、

  • なんのために生きるのか
  • 豊かさとはなにか
  • AIが台頭する中でより人間らしく生きるためにはどうしたらいいか

ということを考える必要があります。

 

近い将来に実現するかもしれない、労働しなくても最低限の生活ができる世界において、「人間らしさ」とは何か、今から考えておくことをオススメします。

 

参考・引用◆
(1)小林正典、西岡佳誉子「社会保障一覧表2017年度版」講談社、2017年
(2)リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット「LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 」東洋経済新報社、2016年

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