日本のミサイル防衛(MD)システム構想と周辺国の事情を知る

1983年生まれ東京都在住。青山学院中等部・高等部卒。 慶應義塾大学総合政策学部にて、国際政治学を専攻。 卒業論文で学部優秀論文賞(SFC AWARD)受賞。 2006年住友商事に入社し、海外駐在を含めた実務経験から 様々なビジネスの知見を得る。 現在、歴史を軸にしたコンテンツ作成者として活躍中。 冷徹な分析力で現代社会とビジネスを診断する。
北朝鮮が核・弾道ミサイルを開発している問題で、ますます日本のミサイル防衛(MD)に注目が集まっています。そもそもミサイル防衛とはどのような仕組みになっているのでしょうか。日本は現在どのようなミサイル防衛システムを採用しているのでしょうか。また、それで十分なのでしょうか。ミサイル防衛や北朝鮮問題の知識を持つことで、ひとつ冷静に考えることができます。この記事ではミサイル防衛(MD)についてまとめました。

ミサイル防衛システムの仕組み

北朝鮮の核・ミサイル開発が問題となっていますが、日本はこの問題に対して

  • 弾道ミサイル防衛システム(MD)

を導入しています。

 

弾道ミサイル防衛システムとは‥

弾道ミサイル防衛システムとは、発射された弾道ミサイルの弾道を、レーダーを用いて軌道計算を行い、着弾前に上空で迎撃することを目標としたものです。

 

構想自体は米ソ冷戦時代のレーガン大統領(共和党)時代に練られました。

当時はあまりに非現実的だとして「スターウォーズ計画」と揶揄されていましたが、現在は命中率もふくめて現実的な防衛システムとして機能しはじめています。

 

 

ミサイル防衛システムのポイント

(※画像は防衛省公式ホームページより引用)

 

ミサイル迎撃は

  1. 弾道ミサイル発射事実の速やかな確認
    ⬇︎
  2. 弾道ミサイルの発射角度・スピード等の精確な計測
    ⬇︎
  3. 弾道ミサイルの軌道を速やかに計算
    ⬇︎
  4. 軌道上に正確に迎撃ミサイルを発射

という順序で行われます。

 

  • スピード
  • 正確さ

の両方が求められるのです。

 

スピードと正確さを実現するには、

  • どこにどれだけのレーダーを配置できるかがポイント

になります。

 

ミサイルは超高速で移動しますので、ミサイルを発射したことを、早く知れれば知れるほど余裕が生まれるからです。

 

弾道ミサイル発射後のミサイル軌道の段階

ミサイル防衛を理解するには、弾道ミサイル発射後の段階を理解するとわかりやすくなります。

 

弾道ミサイルは、発射後に大気圏を抜け宇宙空間をとおって目標地へと向かうという軌道をとります。

 

ミサイル発射後の段階としては

  1. ブースト段階
  2. ミッドコース段階
  3. ターミナル段階

があります。

 

ブースト段階

発射後ロケットエンジンが燃焼し、加速している段階です。

 

この段階では、発射された物体が、

  • ミサイル
  • 平和利用目的のロケット

のどちらかなどの区別は難しいです。

対応:SM3(後述)で感知

 

ミッドコース段階

ロケットエンジンの燃焼が終了し、大気圏を抜け慣性運動で宇宙空間を飛行している段階です。

 

この段階はさらに2つに分けることができます。

  • 上昇段階
  • 下降段階

上昇段階では、まだ平和利用のロケットである可能性が残っています。

下降段階では、いよいよミサイルであることを断定できます。

対応:SM3

 

ターミナル段階

大気圏に再突入して着弾するまでの段階です。

対応:PAC3(後述)

 

どこで撃墜するかも重要

上記の段階でも、どこで撃墜するかということも防衛上重要なことです。

メリット デメリット
ブースト段階
  • すぐに打ち落とせるので防衛上リスクが低い
  • 平和利用のロケットである可能性がある。
  • 相手国内での撃墜なので、先制攻撃の可能性が生まれる。
  • 反論の材料を与える。
ミッドコース段階
  • 宇宙空間なので、合法的に撃墜できる。
  • 破片が自国の地上に落ちてくる危険も少ない
  • ターミナル段階よりも時間的余裕もある
  • 上昇段階ではまだ、平和利用のロケットの可能性がある
ターミナル段階
  • なし
  • 自国領空内なので、破片が 落ちてくる危険性が高い。
  • 失敗してしまうと後がない。

 

 

 

ミサイル防衛システムの仕組みを大まかに理解できましたでしょうか。

 

しかし、これはあくまで仕組みです。

ミサイル防衛を実際に運用するには、様々な問題もあります。

 

どういうことなのか見ていきましょう。

 

 

日本のミサイル防衛の現状

日本は現在、地対空ミサイル「PAC3」と艦対空ミサイル「SM3」の2種類の弾道ミサイル防衛システムを採用しています。

地対空ミサイルは地上からミサイルを発射し、艦対空はミサイルはイージス艦などの艦隊からミサイルを発射するシステムです。

 

イメージとしては、発射された弾道ミサイルを、

  1. まずイージス艦の艦対空ミサイルSM3で迎撃
  2. 撃ち漏らしたものを地対空ミサイルPAC3で迎撃

というものです。

 

SM3もPAC3も命中率は80%以上とされており、万全と思えますがそうともいえません。

日本のミサイル防衛の現状を知るためにそれぞれの特徴をみていきましょう。

 

地対空ミサイル「PAC3」の特徴

PAC3の守備範囲は約50kmとされています。

 

現在、日本の配備数は32基です。

PAC3は2基のペアで機能するので、実質PAC3が配備できるのは日本全国で16カ所ということです。

 

PAC3では約50kmの範囲を全国で16ヶ所からしか守れないというのが現状です。

 

艦対空ミサイル「SM3」の特徴

では、イージス艦のSM3により早い段階で迎撃してもらえばいいと考えられますが、イージス艦にも弱点があります。

 

SM3では弾道ミサイルのブースト段階を感知して迎撃を行います。

そのために、レーダーには指向性があるので、発射台の位置を把握しておく必要があります。

 

しかし、北朝鮮は現在、移動式の発射台を導入していますので、簡単に把握できなくなっているのです。

 

また、イージス艦に搭載するSM3の数もかぎられているのです。

 

日本に着弾する可能性

PAC3とSM3の特徴から、

  • 発射を感知できず
  • 北朝鮮がPAC3の配備地以外を標的
  • もしくは日本が保有している迎撃ミサイルより多い数の弾道ミサイルを使用する

以上の場合に、日本に弾道ミサイルが着弾することになります。

 

北朝鮮のミサイル保有数

16(平成 28)年 2 月の米国防省「朝鮮民主主義人民共和国の軍事及び安全保障の進展に関する報告」によれば、トクサ及びスカッド用の TEL は合計して最大100両、ノドン用のTELは最大50両、IRBM(ムスダンを指すと考えられる)用のTELは最大50両を保有しているとされる。

また、「IHS Jane’s Sentinel Security Assessment China and Northeast Asia(2015)」によれば、北朝鮮は合計700~1,000発保有しており、そのうち45%がス カッド級、45%がノドン、残り 10%がその他の中・長距離弾道ミサイルであると推定されている。

防衛省の平成26年版の防衛白書には以上のような脚注がされています。

正確な数字は、出ていませんが相当数の弾道ミサイルを保有していることを示唆しています。

 

日本のミサイル防衛システムだけで対応できるのでしょうか。

 

ミサイル防衛システムはそれ自体が高額で、多額の予算を必要とします。

どのように、弾道ミサイルに備えればいいのでしょうか。

 

 

レーダー配備と周辺国とのかねあい

まず、ミサイル防衛を実施するためにはレーダーが必要なことはお分かりになったと思います。

しかし、そのレーダーをどこに配備するかが外交上の問題となってきます。

 

アメリカ側の戦力が近づくのを嫌がる中国

たとえば、朝鮮半島の韓国・北朝鮮間に配備すれば中国側にも近づくため、レーダーの監視地域内に中国国境等も含まれることになってしまいます。

中国はこれを嫌がって、韓国への米軍のレーダー配備に反対しています。

 

朴槿恵前政権時代に韓国は米国からのミサイル防衛システム(THAAD)の配備を決定しました。

これにより中韓関係は悪化し、経済も含めて交流が減ってしまいました。

 

日本も十分に北朝鮮の発射台にレーダーを巡らせる場合には中国の反対を考えなければいけません。

やはり各国と協力関係を築くことが現実的なミサイル防衛と考えられます。

 

 

日米韓の安全保障関係

北朝鮮のミサイル防衛をより強化していくには、日米韓の安全保障協力が有効だとされています。

 

  • 北朝鮮により近い韓国のレーダーを共有出来る
  • 3カ国が協力することで、予算を抑えてより多くのレーダー、迎撃ミサイルを使える

などの理由からです。

 

特にレーダーの数については多いに越したことはありません。

ひとつのレーダーではカバーしきれない部分があるからです。

 

その一方で、近接する箇所にレーダーを配備しても重複が生じて非効率的な運用となる可能性もあります。

 

日本と韓国の安全保障関係

  • 日本と米国
  • 韓国と米国

は、それぞれ安全保障条約を結んでいます。

一方、

  • 日本と韓国

は直接安全保障条約を結んでいません。

 

条約上では、あくまでも米国を介した関係となっているのです。

 

「軍事情報に関する包括的保全協定(General Security of Military Information Agreement, GSOMIA、ジーソミア)」を日米、米韓で締結しています。

 

しかし、日韓では長い間、結ばれていませんでした。

(ちなみに日本は、米国の他にはNATOと結んでいます。)

 

韓国との協力が必要

そのため、日本領土へミサイルの情報は日本と米軍では共有されますが、韓国領土への情報は韓国と米軍でのみ共有される状況でした。

 

韓国のレーダーが北朝鮮のミサイル発射を探知しても、その情報は日本へは流れませんでした。

米軍にのみ共有されます。

 

そして米軍から日本への共有のためには韓国軍との協議が必要でした。

これでは北朝鮮のミサイルに対して効率的な対応が出来ないのです。

 

効率的な対応を実施するためには、日米韓の3カ国での軍事上の情報共有や一体運営が欠かせません。

 

日韓協力の経緯〜協定締結へ

日本と韓国は2012年6月に日韓でのGEOMIAの締結を予定していましたが、締結の一時間前になって延期されました。

これは戦後初の日韓での防衛協力規定であったため、韓国政府は国民に秘密裡に交渉を行っていたところ、直前になって国民に明らかにした際に強い反対運動が起きたからです。

 

現在、韓国と日本は同じ資本主義国家として、OECD加盟国として協調する立場にあるものの、過去の植民地時代の歴史的経緯もあり、日本との「防衛協力」といった軍事上の繋がりに対して深い不信感を抱いています。

しかし、2016年に再度交渉が進み、その際には韓国内での丁寧な説明がなされたこともあり、2016年11月23日に署名・締結がなされました。

 

 

北朝鮮の立ち位置

ここでミサイル発射の可能性を考えるために北朝鮮の立ち位置について基本的なところを考えてみましょう。

 

北朝鮮は地理的に

  • 韓国
  • 中国
  • ロシア

と国境を接しています。

 

韓国はもちろんアメリカに近い国とされています。

また、同じく米軍基地が多くある日本も海を挟んで隣接しています。

 

北朝鮮は大国に挟まれた特異地にあるといえます。

 

朝鮮戦争〜大国の意図

歴史をみればわかるとおり、北朝鮮は旧ソ連と中国の力を背景に建国された国家です。

また、韓国はアメリカの力を背景にしています。

 

つまり、朝鮮半島は東西冷戦構造がそのまま保存された地域なのです。

 

ここでは大国の意図が大きく動いているともいえます。

  • 中国、ロシアに対して極東に軍隊をおき抑止力を持ちたいアメリカの意図
  • アメリカの戦力を警戒する中国、ロシアの緩衝地帯(アメリカ側と直接国境を接しない)

中国とロシアについてもそれぞれ意図が違います。

 

北朝鮮を理由に

このように大国同士の戦力が均衡している地域が朝鮮半島です。

北朝鮮はアメリカが戦力を保持する理由にもなっています。

 

アメリカは、本当は中国やロシアを想定しているにもかかわらず、北朝鮮という国家があるために

「北朝鮮があるから」

という理由で、中国やロシアを直接刺激せずに戦力を極東地域におくことができるのです。

 

北朝鮮をコントロールできるのか

アメリカは北朝鮮が消滅することになれば、極東に軍隊をおく大義がなくなって中国やロシアに反発された場合の説明ができなくなってしまうのです。

その意味では従来のアメリカの立場は北朝鮮を潰したくないというのが本音ではないかともいわれています。

 

中国、ロシアにしてもアメリカ側と直接国境を接しないためには北朝鮮が必要です。

北朝鮮は大国の間で、少なくともこの数十年は暴発せずに、その独特なやり方で役割を演じてきたともいえます。

 

しかし、問題は北朝鮮がコントロールできるかということです。

 

簡単にはミサイルは発射しない

以上の理由から、北朝鮮がミサイルを発射するときは3つの大国の意図を崩す決断です。

これは、自らの体制を自ら崩壊させるということを意味します。

 

つまり、北朝鮮も簡単にはミサイルは発射できないのです。

 

しかし、このまま大国の板挟みになり追い込まれることがあると、最後の選択肢を選ばざるをえない状況が生まれるかもしれません。

 

ミサイル防衛が必要な真の理由はここにあるのです。

 

 

今後の運用に課題

2017年、韓国では、新しい大統領が誕生しました。

新しい大統領になり、日韓関係にも注視が必要になっています。

 

そして、協定はすでに発行していますが、現実的な運用にはまだまだ課題があります。

これからの北朝鮮の核・ミサイル開発問題に対処する上で、日米韓の情報共有が試されているといえます。

 

北朝鮮をめぐる問題には、その背景に世界規模の様々な思惑が交錯しているといえます。

トランプ大統領になり、従来の均衡も不透明な状態になりつつあります。

 

そんな時こそ、その背後にある構造を知り、ミサイル防衛の仕組みを知り、冷静に情報を考える必要があります。

ひとつの情報に惑わされずに、多くの情報から個人が自分の考えを持つことも試されているといえます。

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