優しさ

「やさしさ」という技術を身につけて賢く得をしよう

「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格はない」とは、小説『プレイバック』の主人公、フィリップ・マーロウの言葉です。ただ、抜け目なく油断ができない現代ビジネスの世界では、ライバルや顧客にやさしくすると足元を救われてしまうのではないかという考えもあります。これからの世界を生きていくのに、やさしさは必要なのでしょうか。人口約900万人のスウェーデンで約30万部も売れた名著『「やさしさ」という技術(The Art of Being Kind)』には、「技術としてやさしさを身につけよう」「自分のために相手にやさしくしよう」「得をしよう」といった、日本の道徳の授業では教えられていない考え方が記されています。

やさしさは性格ではなく技術

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一般的な通念では、やさしさとは「生まれもった資質・性格」であって、個人の意思でコントロールできるものではない。だが、これは正しくない。出典:「やさしさ」 という技術 P14

この本の著者で医師でもあるステファン・アインホルン氏は冒頭で、やさしさは資質や性格ではなく誰もがマスターできる「技術」であるとしています。

お金持ちになる方法、問題解決やコミュニケーションの本は多々ありますが、「技術としてのやさしさ」について書かれた本は多くはありません。本書の主張でユニークなのは、自分が得をしたいから誰かにやさしくするという、利己的なやさしさでもまったく問題ないと断言している点です。

 

偽りのやさしさと真のやさしさの違い

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「技術としてのやさしさ」を習得するためにはまず、偽りのやさしさと真のやさしさの違いを理解するところからはじめます。

やさしさという言葉は現代において、必ずしも肯定的に使われるわけではありません。部下を叱れない上司や、子どもを甘やかす親なども時として「やさしい」「やさしすぎる」と表現される事がありますよね。本書ではこのような「意志がない」「他人のいいなりになる」「甘やかす」「ことなかれ主義」といった状態を、偽りのやさしさと定義しています。

反対に真のやさしさを、正しさのために立ち上がる勇気を持つこととしています。批判も、相手が成長するための愛がある批判であれば、やさしい行動なのです。

 

やさしさを発揮するには判断力と勇気が必要

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偽のやさしさと真のやさしさの違いを理解できても、日常生活のなかで起こる事象を瞬時に理解し、真のやさしさを提供し続けるのは簡単ではありません。

体臭がキツイことが原因で周囲から距離を置かれてしまっている同僚にその事実を伝えるのは、真のやさしさでしょうか。

母親の治療費を捻出するため、不正をして多くの賞与を得た営業社員を告発しないのは、真のやさしさでしょうか。

テストで単位をとらないと退学になってしまう友人のカンニングを見逃すのは、真のやさしさでしょうか。

日常生活には、真のやさしさのふりをした偽りのやさしさが多く存在しますし、その逆もあります。また「これは真のやさしさである」と判断したところで実際にそれを行動に移せるかは別の話です。

真のやさしさを発揮するのは、判断力と勇気が必要な、高度な技術なのです。

 

やさしさとは行動である

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災害に遭遇した人を心から慈しみ、涙ながらに幸せを願っているAさんと、災害に遭遇した人は「運がない人」と思いながらも、ボランティアとしていち早く現地に赴き、復興を支援するBさん。どちらのほうが「やさしい」でしょうか。この例からもわかる通り、やさしさとは思想ではなく行動です。「気持ちが大事」「願い続けることが重要」といったスタンスは、偽のやさしさの代表例です。

「世界の美しい感情をすべて集めても、ただひとつのやさしい行為にはかなわない」出典:「やさしさ」という技術 P54

アメリカの詩人J・R・ロールウェルの言葉からもわかる通り、どんな感情や思想をもっている人よりも、行動を起こす人のほうが真にやさしい人なのです。

 

利己的なやさしさでも構わない

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本書が道徳の教科書と違うところは「利己的なやさしさ」も「慈愛に満ちた利他的なやさしさ」も、並列に扱っている点です。「自分が得をするために、相手にやさしくする」と聴くと、憤慨するひともいるかもしれませんが、本書の主張は「まったく問題がない」です。

ある研究によると、人間同士の協力作業は快感を高めるドラッグと同じ整理効果を脳にもたらすといいます。生物学的に考えると、同じ種同士で思いやったり善意を示す能力は自然界の生存競争を生き抜くうえで必要な力です。

よい行いは副作用のないドラッグのようなものなのだ。出典:「やさしさ」という技術 P125

という言葉のとおり、真にやさしい行動は相手に貢献できるだけでなく、自分自身も快い気持ちになれる行動なのです。そしてそれは、種の生存競争を勝ち抜く過程で遺伝的に受け継いだと考えることもできるのです。人間の3大欲求が快感を伴うのと同じように、やさしい行動にも快感が伴うのは「それが生存競争に勝ち抜く上でメリットがある行為」として、プログラムされていると考えることができます。

 

技術としてのやさしさを身につけるための5つの道具

アイテム グッズ

どうしたら、技術としてのやさしさを身につけることができるのでしょうか。著者の考える「やさしい人」とは、倫理にしたがって生きている人であり、倫理とは、人類が仲間であり続けるための技術としています。どうしたら「やさしさ=倫理」を身につけることができるのでしょうか。本書では、以下の5つを道具として紹介しています。

  1. ルール
  2. 判断力
  3. 良心
  4. 共感力
  5. 他者

1.「ルール」

「原則」「規律」「法律」といったルールは人類が発展していく過程で大きな役割を果たしました。ルールという概念がなければ、人間はここまで発展ができなかったかもしれません。ただ、ルールは道標ではあるものの常に正解を与えてくれるわけではありません。「ルールに沿って生きていれば、技術としてのやさしさが身につく」とは限らないことを理解するのが、最初のステップといえます。

2.「判断力」

判断とは、ものごとを合理的に分析、比較検討し、行動を意志決定することです。これまでにご説明したとおり、やさしさとは行動なので、行動に伴う判断に繋がっていなければ技術としてのやさしさが身についたとはいえません。

3.「良心」

判断力を論理的な根拠とすると、良心は感情的な根拠といえます。判断に加えて、良心の声に従うことで、勇気をもった「真にやさしい行動」に繋げることができるのです。

4.「共感力」

人はそれぞれ違う存在で、違う脳を持ち、違うことを考え違う行動をします。それでも、相手が何を考えているかを想定する、考える、仮説立てる能力が「共感力」です。思いやりは共感に似た言葉ですが、意味が違います。思いやりの目的は「他者を元気づけること」で共感の目的は「相手の理解」です。ときとして、相手を元気づけないことのほうが真のやさしさであることもあります。この定義に沿って考えれば、思いやりをもった行動がすべて真のやさしさとはいえない、ということになります。

5.「他者」

誰かを助けると、助けられた側にメリットがあるのはもちろんのこと、助けた側にもメリットがあります。前項でご紹介したとおり本能的に快感を得ることができますし、他者の意見を聴くことで自己成長にも繋がります。やさしさは自分ひとりでは成立しない技術です。どんなに正しい判断も、勇気をもって行動に繋げようとする行為も、相手がいないことには成り立たないのです。

 

真のやさしさは自分のためにも

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アウシュヴィッツ強制収容所に3年間収容された著名な精神科医、ヴィクター・フランクルはこう記している。

強制収容所に入れられていた人なら誰でも、部屋をまわって仲間を励まし続けた人、最後のパンを他人に分け与えた人を記憶しているはずだ。例え数は少なくとも、そういう人がいたという事実こそ、人間にはただひとつ、誰からも奪われないものがあるという証拠である。つまり、どんな状況下でも、自分の思う通りの行動をする自由だ。出典:「やさしさ」という技術 P80

2016年の日本経済は、高度成長が終わった後の成熟市場のなかにあります。黙って働けば給与が上がりつづける世界ではありません。近年は「なぜ働くのか」「なんのために働くのか」といった、理由を大事にする人が増えてきました。一方で企業は、大企業、上場企業を中心に、市場の成長に関わらず、増収増益という意味での成長が義務付けられている存在です。

なぜ働くのかを大事にしたい個人と、無条件で成長を求める企業の矛盾が存在しています。

ただ上記したP80の引用にもある通り、人間はどんな状況下でも、自分の思う通りに行動する自由があります。この本のテーマの1つである「やさしさとは行動」というメッセージは、「相手があるやさしさ」について語られていますが、「自分に対するやさしさ」も同じように解釈することができます。

つまり、技術としてのやさしさを身につけると、自分にとっての「真のやさしさ」を自分で判断し、勇気をもって行動することができるようになるという解釈です。

「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格はない」

技術としてのやさしさを身につけて、周囲の人にも自分にも、真のやさしさをもって接することができれば、タフでやさしい人生を歩むことができるのです。

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