GDPに代わる指標「包括的な豊かさ」とは?

包括的な豊かさは国民の幸福度や経済の持続可能性を測る新しい指標です。まだ統計手法が未熟ですが、ヨーロッパやアメリカなどの先進国では順次導入しています。日本は主にGDP重視の経済政策を行っていますが、世界には新しい指標である包括的な豊かさに目を向けている国もあります。この記事では、包括的な豊かさの意味やGDPとの違い、日本の包括的な豊かさについてまとめました。

GDPとは?

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GDPは「Gross Domestic Product」の頭文字で、日本語では「国内総生産」です。

GDPは「一定期間(主に1年間)に生み出された付加価値の総額」を指します。

具体的には「消費+投資+政府支出+貿易収支」という式で表すことができます。

消費は生活者が行った支出のことで、投資は企業が行った支出のことです。

政府支出は政府が使うお金のことで、貿易収支は「輸出額-輸入額」で表すことができます。

GDPは経済規模の大きさを表す指標として利用されています。

以下の記事に詳細をまとめていますので、併せて参考にしてみてください。

 

包括的な豊かさとは?

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包括的な豊かさ(Inclusive Wealth)は世界的に有名な経済学者スティグリッツ氏が提唱している新しい経済指標です。

これについての報告書は『暮らしの質を測る』(金融財政事情研究所)より出版されています。

この指標で国民全体の幸福度及び経済発展の持続可能性について測ることができるとされています。

包括的な豊かさの内訳は頭脳力である「人的資本」「生産した資本」「社会関係資本」石油や農業を中心とした「天然資本」の4つから成り立っています。

 

GDPと包括的な豊かさの比較

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GDPと包括的豊かさの違いは次の表のようになっています。

包括的な豊かさ(IW) 国内総生産(GDP)
基本概念 ストック(残高) フロー(流量)
要素
  • 人的資本
  • 生産した資本
  • 社会関係資本
  • 天然資本
  • 個人消費
  • 設備投資
  • 政府支出
  • 貿易収支
測れること
  •  国民の総合的な幸福度
  • 国の経済発展の持続可能性
  • 国の経済規模
  • 経済規模の拡大速度
最終目標  国民の幸福度を増やすこと 経済規模を拡大させること
長所  国民の幸福度および経済発展の持続可能性を初めて分析対象に含めている。
  • 国の経済規模を明確に表現。
  • 完成度が高く、国際比較ができる。
短所
  •  社会関係資本に関する統計が未完成。
  • 人的資本と生産した資本が試算。
  • 導入している国が少ない。
国民の幸福度と経済持続可能性は分析対象外。

包括的な豊かさはストック、GDPはフローの概念です。

包括的な豊かさは国民の豊かさや持続可能性を測れるのに対し、GDPは国の経済規模を測ることができます。

GDPでは、経済成長にともなって皆が豊かになっているのか、多くの人を犠牲にして一部の人だけが豊かになっているのか分からない点で問題があります。

世界10数カ国で累計100万部突破した経済書であるトマ・ピケティの『21世紀の資本』には貧富の格差が拡大すると経済システムは崩壊するとの見方があります。

包括的豊かさは幸福度を含めた指標ではありますが、2009年に生まれた新しい指標であることから、統計システムが未熟である上に、重要視している国が少ないのがいまのところの現状です。

 

包括的な豊かさを計る4指標

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包括的な豊かさの4つの指標

  1. 人的資本
  2. 生産した資本
  3. 社会関係資本
  4. 天然資本

1.人的資本

経済は生産活動を行うことから成り立っていますが、生産活動には人が重要です。

その人が与えられた課題を理解して、適切な行動をとることが前提にあります。

このような能力は「教育」という投資のおかげで生み出されたものです。人的資本では教育をもとに計算されています。

人的資本の定義は

(教育年数+訓練年数) × 教育を受けた人の数 × 平均賃金の現在価値

で表すことができます。

大卒・短大卒の割合は日本では約56%、EUで平均30%、アメリカでは約27%であることから日本の教育水準は高いことが分かります。

しかし、先進国では教育強化策が戦略としてとられている一方、日本は教育予算の削減がされています。

今日現在は高い人的資本を誇る日本も、教育予算の削減により今後どうなるかはわからないのです。

2.生産した資本

人が生産活動を行う際、生産した設備を利用することで効率があがります。

機械を使って農作業するのと、クワを使って農作業するのとでは、最終的に生産できる量は機械のほうが多いですよね。

生産した資本では今までどれくらいの量、質のインフラを生産したかが算出の対象となります。

生産した資本

今まで生産したインフラの量と質

日本は今まで高い水準の設備投資や公共事業を行っていることから、世界最大の「生産した資本」を誇っています。

3.社会関係資本

経済活動は人と人がつながることで初めて行われることです。

人と人とのつながりがあるから人間は仕事をし、やりがいを見出すことができるとしてスティグリッツ氏は重視しています。

人と人のつながりは生産性や治安、社会の安定につながると考えられており、これが社会関係資本です。

しかし、数字として測るのが難しく、2016年時点では未だに社会関係資本を数値化する標準的な統計ができていません

天然資本

包括的な豊かさでは地下資源以外にも、水田や植林地も天然資源に含まれます。

天然資源

  • 農業用地
  • 森林資源
  • 漁獲量
  • 鉱物資源
  • 化石燃料

「日本は資源国ではない」という認識が一般的ですが、それは鉱物資源、化石燃料のことです。

農業用地や森林資源、漁獲量の観点からは、日本も立派な資源国といえるのです。

 

包括的な豊かさ、日本の評価は?

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国連が発表した『総合的な富裕度報告書2012』によると、2008年時点では日本は1位を記録していました。

2014年に出した報告書の改訂版では、2010年時点では日本は15位に下落しました。

これは日本が急に貧しくなったからではなく、統計の手法が変更されたからです。

人的資本では現在と将来の人口の変化についても考慮する手法に変更されました。

日本は少子高齢化の進展により65歳以上が人口の約25%を占める日本では人的資本が大幅に減少して計上されました。

そのうえ20年間でどれだけ教育水準が向上したの指標が追加され、もともと教育水準の向上余地が多かった他の国に有利な統計手法になりました。

また1990年から2010年にかけて日本では賃金が減少したことも重荷となりました。

 

世界の変化に目を向ける

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2011年の国連総会では「GDPに代わる新しい統計を開発するべきである」という決議が採択されました。

EUでは2010年3月に採択された「EU2020年戦略」では経済成長率やGDPによる経済規模の拡大よりも、個人の福利厚生増大を目指す政策をとっています。

アメリカでも2011年11月に「暮らしの質」部会長を務めているクルーガー氏が大統領経済諮問委員会の委員長に任命され、2012年の年次大統領経済報告書で経済成長以外に重要な政策目標があることを力説しています。

国連新統計の開発責任者であるダスグプタ氏は持続可能性を把握できる評価基準に変えないかぎり、短期的な経済成長の重圧に苦しむことになると述べています。

世界の変化に目を向けて、日本もGDP偏重から持続可能性や国民の幸福度を考慮することを検討するべきといえます。

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